TRPGジャンクション

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トーキョーN◎VA 「孤独な狗、墜ちた星」 

以前に主催していたサークルの会誌用に書いた小説と、そのルール的解説のコラム。
元になったTRPGは「トーキョーN◎VA the Detonation 」
地軸移動による氷河期の到来により、環境が激変した近未来。
東京湾に建造された人口島トーキョーN◎VAを舞台に、ノワールな物語が繰り広げられます。
サイバーパンクの影響下で創られたゲームなので、人体改造は基本として、超能力者や拳法の達人。
企業のCEOやチンピラや娼婦まで、様々なキャラクターを創造できるのが魅力のTRPGです。

ちなみに主人公は、超ハッカーにして銃の達人の刑事(ニューロ/カブトワリ/イヌ)
ヒロイン、軌道コロニーの特権階級から墜ちこぼれて娼婦になってしまった幸運の女神(ハイランダー/マネキン/カブキ)
ライバル、拳法の達人にして超能力者のマフィア(チャクラ/バサラ/レッガー)

〆切り(構想から書き上げまで4日)と文字数の都合で出来はあまり良くないのですが、まぁ、暇つぶしにでもどうぞw

 

トーキョーN◎VAショートストーリー

「孤独な狗、墜ちた星」

 その女は、誰も使うこと無く放置された埃塗れのソファーと剥き出しの壁の間の狭いスペースに、捕食者に追われる小動物のように縮こまっていた。
「ノーマ・ジーン?」
 感情を欠片も含ませない冷たい声が、女に投げかけられる。
 女は一瞬身をすくませ、それから恐る恐る声の主を見上げた。
 長身で引き締まった体型の男。
 金髪だが根本は黒い。 おそらく染めているのだろう。
 顔に埋め込まれたミラーシェードと両腕のサイバーアームが無機質な光を反射している。
 黒を基調としたジャンプ・スーツに、同じく黒のレザージャケットを羽織っている。
 胸にはバッチ。 黄金のケルベロスを象ったエンブレムが鈍く輝いている。
「ブラックハウンド?」
 ノーマ・ジーンと呼ばれた女は、おびえを含んだ声で男に問う。
 非人間的な強引な捜査と実力行使による事件解決で、企業人、犯罪結社、一般市民にまで分け隔て無く怖れられる特高警察ブラックハウンド。黄金のバッチは、彼がのそのメンバーであることを示していた。
「百眼だ、 アンタを探しに来た。立てるか?」
 ノーマが答える間すら与えず、百眼は彼女の腕を取り強引に立たせ、その姿を一瞥する。
 緩くカーヴのかかった金髪、ブラウンの瞳、流麗な曲線を描く輪郭。 彼女の顔立ちは、百眼の保持する画像データと寸分違わず合致した。
「酷い格好だな。レッドゾーンに逃げ込んで5時間、よく生き延びていたものだ」
 ノーマは百眼の言葉に自分を姿を見下ろした。 合成では無い天然のシルクで織られた白いカクテルドレスはレッドゾーンを逃げ回ったことによる無惨に汚れ、原形を留めないほどに至る所が裂けていた。
 彼女は一瞬恥ずかしげに胸元を隠し、そのあと、思い切ったように百眼に縋り付いた。
「なぜ、もっと早く助けに来てくれなかったの!?」
 まるで恋人に語りかけるように甘く拗ねた声。
 百眼はそんなノーマをミラーシェードで見下ろし、淡々と事実だけを述べた。
「2ヶ月前キミが誘拐されたあと、何者かがキミのデータを巧妙に隠した。それでどの企業警察も公安組織も、キミが行方不明になっていることにすら気づかなかった」
「それじゃ、アナタだけが私を見つけてくれたの?」
「オレは人捜しが得意なだけだ。アンタが生きてようが死んでいようが、そのうち見つけていたよ」
 ノーマは不満そうな声を上げたが百眼は意にも介さずに続けた。
「アンタを房総空港で軌道シャトルに放り込むのが仕事だ。それ以外に興味は無い。いいか、邪魔になるな」
 パンッ!
 ノーマの平手が百眼の頬を鳴らした。
 瞳に涙を溜め、ノーマが百眼を睨む。
「レッガーにされわれて無理やり身体売らされて、死ぬ思い出逃げ出したのよ!死ぬより怖かったんだから。それなのにそんな冷たい言い方って!」
 ノーマが自らの怒りを表現しようともう一度手を振り上げた。しかし、その手が振り下ろされる前に百眼は彼女を抱きすくめ、そのまま床へと押し倒した。それと同時に射撃音が空気を振わせ、無数の銃弾が廃墟の中を踊り回る。
「さすがに猟犬の旦那は鼻が利く。その獲物を渡してくれりゃ、ちゃんとご褒美あげるぜ?」
 銃撃のあとに響いた揶揄する声は、ノーマが潜んでいた廃マンションの外から聞えた。
「アイツ、私をさらったヤツ」
 ノーマが低く声をあげた。その声は苦痛と恐怖に引き攣っていた。
 百眼のノーマをかばいつつ、ストリートの各所に配置された監視カメラをドミネートした。通常の風景の上にデジタル上のストリーム・マップが被さる。
 フリップ・フロップ。
 リアルとウェブを同時に知覚する、ニューロのみが可能とするスーパー・テクニック。
 ミラーシェードに次々とウィンドウが開き、さまざまなアングルからレッガーたちの様子を写しだす。レッガーたちの数は6人。内5人がサブマシンがで武装し、残り一人がアサルトライフル
 ブラックハウンドの犯罪者データベースで検索をかける。答えは3秒。中国系マフィア三合会のチンピラどもと、最近香港HEVENから渡ってきた用心棒、帳雷飛。アサルトライフルの男がそうだ。
「おいおいワン公。返事はどうした?黙り決め込んでるなら蜂の巣にしちまうぞ!」
 帳雷飛が喚き、空に向けて銃弾をばら撒く。どうやら威嚇のつもりらしい。
 ノーマはその音に怯えて、百眼の腕の中だ身を竦ませる。
「片付けるてくる。動くな」
 百眼はそう告げ、ノーマが言葉を発する間もなく駆け出し窓から飛び降りた。

 タイプD、起動。
 サイバーウェアにより神経の反応速度が加速される。視界が色を失い灰一色に塗りつぶされ、風景がゆっくりと流れる。
 突然、頭上から飛び出してきた百眼に度肝を抜かれたチンピラたちは慌てて銃を向けようとするが、一人の銃が持ち主の意に反して仲間たちにむかって発砲される。
 レッガーのIANUSを乗っ取った百眼による攻撃だが、チンピラたちに知るよしもない。撃たれたレッガーが別の相手を撃ち返し、同士討ちによって次々と倒れていく。百眼が地面に降り立ったときには、立っているのは帳雷飛だけだった。
「てっ、テメェ! 何しやがった!」
 帳はアサルトライフルを向けるが、それよりも早く百眼は動いた。サイバーアームの前腕部から内臓式マシンピストルがポップアップし銃弾を吐き出す。一瞬にして数十発の弾丸を受けた帳は、呻き声さえ漏らす間もなく崩れ落ちた。
「粋がってないで奇襲すべきだったな」
 そう吐き捨てて百眼は背中を向けた。

「百眼!」
 廃マンションからノーマが飛び出してくる。倒れているレッガーたちを器用に飛び避け、全力で百眼に抱きついた。
「アナタ、凄いのね!私のためにこんな……」
 抱きついた勢いのままノーマの顔が百眼に近づいてくる。潤んだ瞳がゆっくりと閉じていき、彼女の体臭が甘く鼻腔をくすぐる。
 半ば本能的に、百眼は彼女を突き放す。
 ヒュンッ!
 空を切り裂く音と共に、百眼の右肩に衝撃が走った。銃弾がめり込む感覚。そして、そこを中心に強力な電圧が全身を駆けめぐる。
「グゥッ!」
 過剰負荷の電圧にサイバーアームが煙を噴き上げ機能停止し、強化された神経系統を麻痺させる。百眼は膝から崩れ落ちるが、ノーマがすんでの所で抱きとめた。
「おいおい、見せつけてくれるじゃネェかよ」
 帳雷飛がゆっくりと立ち上がる。口元にはサメのような笑みを浮かべ、余裕げに左手でスーツの埃を払う。
「旦那、言うまでも無いとは思うがコッチもビジネスだ。その女は一晩でプラチナムを稼ぐ。黙って帰すってワケにはいかねぇんでな」
 張が右手を前に伸ばし百眼に向ける。
 百眼は地面に倒れ伏しているチンピラのIANUSを再度ドミネートし、SMGの引き金を絞らせる。構えること無く引き金を絞られた銃身は、その反動で踊回り、マガジンに残った全弾をデタラメにバラ撒いた。無数の銃弾が周囲の壁を、アスファルトを穿つ。しかし銃弾そこには留まらず、その全てが跳弾し、視認も予測もできない軌道で帳に襲いかかる。
 避けることもかわすこともできず、全身で銃弾を受けようと見えた刹那、何の前触れもなく帳の周りにプラズマの嵐が吹き荒れた。無数の稲妻が閃き、全ての銃弾を捕らえ蒸発させた。
「バサラか!?」
 百眼が驚愕の声をあげた。
 超能力者、霊能力者。噂には何度も聞いたことがあるが、実物を見るのは初めてだった。
 張はサメの笑みを貼り付けたまま、何事も無かったように右手に握り込んでいた物を弾いた。
 ビシッ!
 咄嗟にノーマを突き飛ばした百眼の左肩が爆ぜる。
「ガアァァッ!」
 再度、全身を襲った電撃に百眼を叫び声を上げて倒れ伏した。
「まったく、ウェット相手にこんなもんブチ込むたぁ、さすがブラックハウンドはやることがエゲツねぇ」
そう軽口を叩き、右手を小指から順に開いていく。その中に握り込まれた弾丸が地面にこぼれ落ちる。百眼が最初に帳にむかって放った銃弾は、全てその手でつかみ取られていた。
「とは言えコッチも面子の商売だ。やられた分は返させてもらうぜ」
 そう言って帳は三発目の指を弾く。電撃をまとった銃弾は脇腹に着弾し、凄まじい衝撃により百眼の身体は痙攣をおこす。しかし、その口からはもう呻き声すら出ない。
「もうやめて!」
 ノーマが張にすがりつく。
「一緒に行くから。もう逃げないから。これ以上、酷いことしないで!」
 張は煩わしそうにノーマを振りほどき、地面に投げ出された彼女に向け指を鳴らす。その瞬間、空に閃いた落雷がノーマを直撃し、彼女は悲鳴を上げ崩れ落ちる。
「一緒に行くだぁ? 眠たいこと言ってるんじゃねぇよ。オマエに端から選択権なんかねぇ、死ぬまで客を取り続けるんだよ!」
 張はそう吐き捨て、ノーマの腹を思い切り蹴った。二度三度、銀の蛇革が彼女の腹にめり込む。張の顔には愉悦の表情が浮かび、それと対比するようにノーマの顔は苦悶に歪んでいった。そうやって数分間ノーマをいたぶっていたが、不意に興味を失ったように踵を返し、「オイ、いい加減帰るぞ」と促した。
「お願い、最後にお別れ言わせて」
 しばらく咳き込んでいたノーマが、嗚咽をあげながら息も絶え絶えに哀願した。張は軽く溜息をつくと首をしゃくって促した。ノーマは這いずるように百眼に近づき、その髪を優しく撫で、頭を愛おしげに抱きしめた。
「ゴメンね、私が逃げたせいでこんなことになって。軌道から捨てられてから、私を捜してくれたのはアナタだけだったの。嬉しかった。だから、ありがとう。・・・・・・さようなら」
 百眼の顔に涙が降り注ぐ。しかし、百眼はピクリとも動かない。ノーマはぎゅっと瞼を閉じると、意を決して立ち上がりよろめきながらも歩き出した。足を引きずりながらも、帳の後ろを自分の足で歩いていった。

 


 強烈なのスポットが瞳を焼き、大音量の音楽が耳をつんざく。無数の男女の欲望の熱気が、とぐろを巻くように場内に渦巻いている。嬌声、罵声、羨望、嫉妬、好奇の目。それらさまざまな物がノーマを待ち受けていた。
 彼女の前には、ホールを縦断する一直線のステージ。そこで値踏みされ、競られ、今夜の客が決まる。客席に着くのは、いずれも名の通った企業のエグゼグたち。彼らの表にはできない欲望を晴らすために巨万の金が動く場所、それが娼館「銀影月」。
 ノーマは無表情でステージの上を歩いていく。彼女がステージに姿を現した瞬間、待ちかねたと言うような歓声が上がる。地上での特権を欲しいままにするエグゼグたちですら、本物のハイランダーに目通りできる機会は少ない。それが此処では、金さえ払えれば一夜とはいえ自分の物にする事ができるのだ。自分たちが地上を支配してるというプライドと、どんなに望んでも軌道までは手が届かないというコンプレックスを満たす為に、彼はどんなに金を積んでも惜しくなかった。
 客たちの期待を一身に受けながら、ノーマはステージの端まで歩ききる。そこで彼女は軽く溜息をつき、身にまとったカクテルドレスの肩をずらす。ドレスは身体を滑り落ち、彼女の裸身が満場に晒される。その美しさに息を呑む気配と共に彼女の価格を決めるための競りが始り、ホールは再び活気を取戻す。
 裸を晒し欲望の熱気に炙られても、ノーマの感情は動くことはなく無表情は崩れることは無かった。
 ホールを一瞥する。ここにいるのは金と欲望の亡者だけだ。
『彼らに媚びることは無い。彼らが自由にできるのはこの身体だけ、だから魂は高みから彼らを見下ろしていよう』
 ノーマはそう思うことにした。彼女を救いに来る者はもういないのだ。ならばせめて、自分の運命に対して毅然と立ち向かおう。自分に命をかけてくれた、たった一人の彼のために。

 競りは熱気を帯び、ノーマの価格はうなぎ登り上がっていく。が、やがて、その上がりかたは緩やかになり、最後にダメ押しの提示をした若いエグゼグが今夜の客に決まった。彼は立ち上がり喜びを露わにし、周りの羨望と失笑を買っている。
 ノーマが客の元へ行くためにステージを降りようとしたその時、用心棒の一人が入場口よりホールに飛び込んできた。V.I.P席のある奥へむかおうとしたところで、後ろから入ってきた男に射殺される。
 ノーマは見た。長身のその男は黒いジャケットを羽織り、その胸には金のバッヂが鈍い光を放っていた。感情が呼び戻される。驚き、喜び、安堵。
 ありったけの力で彼の名を呼んだ。
「百眼!」
 その叫びに客たちが振り返る。その眼に映るのは、特高警察ブラックハウンド。
 百眼はサイバーアームからマシンピストルをポップアップさせ、音響ブースにむかって連射する。
 ブースのガラスが砕け散り、アンプを通じて増幅された銃声がホール中に響き渡り、客たちを恐怖のどん底へ蹴落す。
「フリーズ!ブラックハウンドだ!軌道特権略取、および不法侵害の容疑での手入れだ!テメェらの顔は全員記録した。起訴されたくなかったらとっと消え失せろ!」
 その声と共に、客たちは雪崩を打って逃げ出した。我先へと出口へむかう。混乱のただ中、ノーマは百眼の元へむかうために人の波に向けて飛び込もうとした。その時ーーー。
 彼女の頭上でスパークが走り、スポットライトの一つが目の前へ落下した。
 後ろから強引に腕を引っぱられ、ノーマはバランスを崩して転倒した。
「まぁた逃げようってのか、このクソ女」
 張が握っている手に力を込める。電撃がノーマの身体を駆けめぐり、彼女から抵抗する力を奪い取る。張はノーマを抱え上げてステージの奥へ走る。
「ノーマ!」
 百眼の叫びに反応し、ノーマが薄く眼を開く。彼の無事な姿に安堵の微笑みを浮かべる。しかし、“雷帝”の能力により力を奪われた彼女は抵抗することも叶わず、張によって連れ去らわれる。
「クッ」
 人混みに逆らい2人を追うのが困難と判断した百眼は、人の流れに逆らわずそのまま出口へむかう。その間、交通管制にアクセスし、手近なホバーリムジンをドミネート、自分が出口をくぐるタイミングで横付けさせ、そのまま乗り込む。
 出力を最大にして上昇する。ホバーの噴射を直接浴びて吹き飛ばされる人間がいたが、気にもしない。そのまま一気に60階の屋上まで飛ぶ。

 ビルの屋上にはヘリポート。プライベート・ヘリがローターを回転させ離陸の準備をしている。開け放たれたドアから乗り込む三合会の幹部、香主・劉万凱と張雷飛。そして、彼に捕われたノーマも無理やりヘリへ押し込まれる。
 百眼は更にホバーリムジンを上昇させ、屋上の全景をIANUSに記録する。同時にヘリの性能、構造、材質、拾えるだけの情報をデータベースから引き出しておく。その間、3秒。
 全ての情報が揃いホバーリムジンを降下させようとしたとき、リムジンに気づいた帳がヘリから飛び降り電撃を発した。電撃を受けリムジンのボンネットが吹き飛び、コントロールを失い墜落する。
 リムジンを操縦する百眼に気づいたノーマが悲鳴をあげるが、すかさずリムジンを捨て屋上へ飛び降りた百眼を確認し、安堵の表情を見せる。
「しつこいイヌだ。尻尾を巻いてりゃ死ななくて済んだのになぁ」
 張の両手からスパークが迸る。強力な電磁波が発生、百眼のIANUSとウェブとの接続が断線しサイバーアイによって投射される視覚もノイズに侵される。
「機械の手助け無しで歩けるか、サイボーグ?」
「ウェブとの接続を切ったぐらい喜ぶな、機械音痴。手はいくらでもある」
 百眼はすかさず屋上のデータをアップロードし視覚を補正し、張との戦闘データから、彼の移動、攻撃のパターンをシミュレートする。
「なら、試してやるよ!」
 張がサメの笑みを浮かべて数発の指弾を打ち出す。しかし、その時すでに百眼は回避行動を始めていた。バサラの能力により電磁誘導され、通常の銃弾を遙かに超えるスピードで飛来する指弾を、百眼は全て回避して見せた。
 百眼が反撃のため銃を構えた瞬間、猛烈な風に襲われ体勢崩す。
 ヘリのローターの回転が一段と速くなり上昇を始める。屋上に突風が吹き荒れる。
 張がその風に乗るように跳躍し一気に百眼との距離を詰める。指弾では殺れないと判断し、接近戦を挑むつもりだ。
 張は百眼の目前に着地し、勢いを殺すことなく身体を旋回させ足刀を蹴り込む。
 百眼はその蹴りをかわすことができず吹き飛ばされて屋上の縁まで吹き飛ばされるが、自ら転がって勢いを殺し、マシンピストルを張に発砲する。
「ムダだって憶えろよ。バカイヌが」
 無数の電撃が張を中心に踊狂い、次々と銃弾を迎撃しはじき飛ばす。
「残念、本命はオマエじゃない」
 百眼は無表情に言い放ち、再度、発砲した。
 チンッ!
 甲高い音が響く。
 銃弾が銃弾を弾く音。
 百眼の放った銃弾は張が電撃で弾き返した銃弾に命中し跳弾となった。そして2発に跳弾はさらに別の跳弾を生み、無数の跳弾が張の電撃の結界を飛び越えヘリを襲う。
「ノーマ、伏せろぉ!」
 窓に張り付き、不安げに闘いの行方を見守っていたノーマにその声は届いた。
 叫ぶ百眼と眼があった瞬間、ノーマは百眼の想いを感じ取り咄嗟に身を伏せた。
 無数の弾丸がヘリを貫通し、その内部を跳ね回る。劉万凱は何が起こったか理解する間もなく、無数の銃弾をその身体で受け止め絶命した。

「ふざけやがって、よくもクライアントを!」
 張の声が怒りに震えていた。
「そうだ、金の出所が無くなってもまだやるか?」
「ああ、そうだな。ここから先、命を張るのはバカらしい。でもな、メンツは立てさてもらうぜ」
 そう呟いて張は不敵な笑みを浮かべる。
 パチッ!
 指を鳴らす。稲妻がヘリを直撃した。
 ヘリのエンジンが煙を上げ、きりもみしながら落下していく。
「オレの仕事を潰してくれたお礼だ。これでお互い痛み分けだな」
 百眼はヘリにむかって走る。その背後に張が言葉を続けた。
「今日はこれで手打ちにしておいてやるよ。だが、やり合う時は命もらうぜ」
 しかし、百眼には聞いている余裕は無かった。屋上から墜落していくヘリにむけて飛び降りる。左のサイバーアームに仕込んだアンカーをヘリに打込み、ローターの回転に巻き込まれないように注意しながらヘリの中へ侵入する。ヘリの中では、空へ放り出されないように座席にしがみついたノーマが、一人、不安と恐怖に耐えていた。
「ノーマ!大丈夫か?」
「私は何とも……でも、このまま落っこちるわ」
「できる限りはやる」
 百眼はノーマを抱き寄せて操縦席へ移動する。落雷でショック死したパイロットを横へ押しのけ、操縦系統を確保するためにヘリへのドミネートを試みる。しかし、数回にわたって強力な電圧に晒されたサイバーウェアは正常に作動しない。
「チクショウ、あの電気野郎め!」
 百眼が声を荒げ、コントロールパネルを殴りつける。
 心配そうな素振りで、ノーマがそっと百眼の腕を取る。
「ムリなの?」
 百眼は苦々しく首を縦に振り、彼女の言葉を肯定する。
「そう、じゃあ仕方がないわね」
 吹っ切ったように笑う。そうして百眼を後ろからそっと抱きしめた。
「最後にお願いしていい?下に着くまでキスして欲しいわ」
 その言葉に百眼は怪訝な表情を浮かべたが、ノーマの瞳に諦観と覚悟と、自分への深い親愛の情を感じ取って、自らも覚悟を決めた。
「キミを軌道に帰せなかったな。済まない」
「アナタと一緒にいるのに、帰りたいなんて思わないわ」
 2人は見つめ合い、唇を重ねた。
 その時、百眼を奇異な感覚が襲った。
 瞼の裏が光の奔流に満たされ、意識が上昇する感覚。
 視界が開けると、暗黒の空間と目の前に巨大な青い惑星。
 自分の視線が、その青い惑星の一点を凝視する。赤道、日本、旧東京湾トーキョーN◎VA、中華街、娼館「銀影月」、落下中のヘリ、百眼。
 視線は拡大していき、自分のIANUSを通じて改造された神経系を駆けめぐる。
 至るところが寸断され、オーバロードした強化神経を発見する度に超極小のマシンが修復していく。全ての破損箇所が修復され終わったとき、百眼とノーマは唇を離した。
「百眼、宇宙が見えたわ」
「ああ、オレにも見えた」
 頬を上気させ半ば放心状態のノーマを抱きかかえたまま、百眼は再度、ドミネートを試みた。
 自分の五感とヘリのメカニックが接続する。カメラは眼に、ローターは腕に、方向舵は足に、エンジンは心臓に。エンジンを限界までまわし、落下を少しでも遅らせる。そうして稼いだ時間で機体の水平を取戻した時には、地上はもうすぐそこまで迫っていた。あと数分もしないうちに墜落するだろう。
 ノーマを墜落の衝撃がら守るために強く抱きしめる。
 彼女は百眼を見つめて、透き通るような微笑みを浮かべた。
「大丈夫、私たちはきっと、大丈夫」
 ノーマが抱き返しながら耳元でそう囁いた。
 彼女の体温に安堵を感じながら、百眼はその言葉を心から、本当に心から信じることができた。

 

XYZ

 

トーキョーN◎VAコラム

“キャラクター・メイク"

 トーキョーN◎VAのキャラを創る上で一番重要なのは、いかに“カッコイイ"キャラクターを創るかってこと。これは鉄砲バンバン!や電気バチバチ!ってなガジェット的なカッコ良さだけではなく、何を考え、どんな選択をするのか?っていうのが気になるキャラ。つまり生き様が魅力的なキャラを創ろうってこと。
 N◎VAのキャラは26種類のスタイルから3種類を選び、外面のペルソナ(◎)、本質のキー(●)、隠された性質シャドウ(記号なし)に組み合わせることで、ほぼ無限のキャラ表現を行うことができる。
 このスタイルは、職業、クラス的なものだけじゃなく、キャラの生き様や運命といったものまで表現できるので、キャラクターメイクの段階でキャラの設定を盛り込むことが可能なのだ。
 その類い希な表現力を持ったシステムを、ただのデータ的有利不利だけで終わらせるのは勿体ない。ちゃんとキャラの内面や背景も掘り下げてやれば、もっともっと深くて面白いセッションを楽しめるのだ。
 というわけで、今回のキャラたちの解説をしてみよう。ドラマとガジェットのバランスを考えて創ったので、参考にしてみて欲しい。

“百眼” ◎イヌ/ カブトワリ/ ●ニューロ
 特高警察ブラックハウンドの隊員にして電脳ガンスリンガー
 ウェブを通じて世界を認識しているうえハッキングで電脳機器を乗っ取るのも得意なんで、どこからでも射撃できるし、どこへでも当てる。
 ペルソナは法の執行者イヌ。キーは成功や勝利を導く者ニューロ。最後にシャドウはカブトワリで、破滅や破壊をもたらす者。
 動き出したら周囲に甚大な被害を与えながら事件を解決するっていう迷惑な人なんだけど、それによって新しい人生や世界を切り開く人。他人にも、自分にも。

“ノーマ・ジーン” ◎マネキン/ カブキ/ ●ハイランダー
 薄幸のヒロインなんで、マフィアに掠われて強制的に娼婦をやらされている。まぁ、サイバーパンクではありがちかも。
 軌道の特権階級の“お姫さま”。とある事情で地上に捨てられた可哀想な人。生まれの秘密とか悲惨な境遇のため、愛に飢えてます。
 ペルソナはマネキンで魅力的で愛に依存する者。キーのハイランダーは希望。シャドウはカブキで無分別で夢想的。
 感情的でフラフラしているトラブルメーカー。基本的にお荷物で迷惑な人なんだけど、彼女を手に入れれば希望の星が!って感じの割とそのまんまなキャラ。
 実は、こういう一見無力なキャラクターこそが物語には重要で、N◎VAではちゃんとセッションに参加できるのが面白い。

“帳雷飛” ◎●レッガー/ バサラ/ チャクラ
 中国マフィアの用心棒で、超能力拳法使い。
 ウェット(生身)なのでハッカーによる干渉を一切受け付けず、“雷帝”(雷使い)なので電子機器をショートさせることも可能。社会の至る所まで電脳化が浸透したトーキョーN◎VAでは、かなり手強い相手。百眼も直接対決は避けてます。多分、勝てない。
 レッガーは悪や暴力を表すスタイルなので、ペルソナ、キーともにレッガーなこの人は、心底最低のクズ野郎。そしてシャドウのバサラは知恵や知識を、チャクラは節制や求道心を表すので、悪い事にはひたむきで真摯、どんな努力も惜しまないという最悪のキャラクター。

 

“神業"

 トーキョーN◎VAの華、神業。
 毎回ドラマチックな展開や悲喜劇を呼び起こすこのルール。今回のストーリーではどこで発動し、どういう結果をもたらしたのかを軽く解説。実プレイの参考になるといいね。

『百眼に射殺されたはずの張が生きていた』
 チャクラの神業“黄泉還り(フェニックス)”の効果で、完全死亡からでも復活する。チャクラらしく銃弾を全てつかみ取るという演出。

『張が百眼にとどめを刺さない』
 マネキンの神業“プリーズ!”の「他人に神業を使ってもらう」という効果で、張の“黄泉還り”を百眼に使わせた。演出的には、ノーマが娼館に戻る代償に百眼は見逃してもらった事になる。

『娼館「銀影月」から逃げ出すエグゼグたち』
 イヌの神業“制裁(パニッシュ)”の効果でエグセグたちをシーンから退場させた。

『百眼がホバーリムジンでビルの屋上へ飛ぶ』
 ニューロの神業“電脳神(デウス・エクス・マキナ)”でリムジンを探す、乗っ取る、屋上まで飛ぶを神業を使い一行動で行った。

『電撃で吹き飛ぶリムジン』
 バサラの神業“天変地異(カタストロフ)”は建物やヴィークル1台を破壊する。リムジンが破壊されたら、百眼は屋上にたどり着けない。。

『屋上に無事着地する百眼』
 カブキの神業“チャイ”の神業一つを打ち消す効果で、“天変地異”を打ち消した。そのためリムジンは壊れたが、百眼は屋上へたどり着けた。ノーマ、ホッと胸を撫で下ろす。

『絶命する劉万凱』
 カブトワリの神業“どどめの一撃(クーデグラ)”は、射撃を必ず命中させ、キャラクター一人を完全死亡させる。邪魔する張の電磁結界を飛び越えて当てました。

『百眼、宇宙が見えたわ』
 ハイランダーの神業“天罰(ネメシス)”はハイランダーの傍若無人とも言える特権を行使する。ノーマのキスにより、彼女の自己修復用ナノマシンが百眼の神経破損を癒やしたという演出。